前  周生期学部 研究テーマ(その6) 次


神経幹細胞とその微細環境制御を用いた新生児脳障害治療法の開発

  • 中西 圭子 (愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、周生期学部)
  • 時田 義人 (愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、周生期学部)
  • 松井 ふみ子(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、研究企画調整科)
  • 大平 敦彦 (愛知医科大学、先端医学・医療研究拠点)
  • 東 雄二郎 (愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、周生期学部)

 神経幹細胞は自己を複製する能力と神経細胞やグリア細胞へ分化する能力を持っていることから、脳損傷の有効な治療の材料として注目されています。しかし実際に治療に用いるためには、その増殖や分化の方向性を人為的に制御することが必要です。細胞の生理機能はその微細環境により制御されると考えられていますが、神経幹細胞の環境分子については十分な研究がなされていません。私たちは、これまでに、神経幹細胞周囲の微細環境にさまざまなコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが存在し、神経幹細胞の増殖等に関わっていることを明らかにしてきました。
一方、当研究室では、幼若ラットに頸動脈結紮および低酸素処理を行う方法で、新生児脳障害モデルラットを作製し、種々の薬剤の神経保護効果について検討してきました。近年、新生児医療は格段に進歩し未熟児や病的新生児の救命率は向上しているものの、ヒト新生児低酸素性虚血性脳症などの脳障害に対する治療法は充分効果的なものはなく、新規治療法の開発は急務の課題となっています。そこで私たちは、神経幹細胞とその微細環境機能制御を応用することにより、新規の新生児脳損傷治療法を開発できないかと考え、研究を進めています。これまでに、神経幹細胞とともにコンドロイチナーゼというコンドロイチン硫酸糖鎖を分解する酵素を脳室内投与すると、新生児脳障害モデルラットにおいて脳硬塞が軽減することがわかりました。しかし、神経幹細胞の脳室内投与は治療法として応用するには非現実的です。現在、末梢投与でも脳内に移行できると言われている臍帯血幹細胞を用いて、神経幹細胞と同様な効果を得られないか検討しています。

関連論文
  1. Ida, M. et al. (2006)  Identification and functions of chondroitin sulfate in the milieu of neural stem cells.
    J Biol Chem
    , 281: 5982-5991

  2. Kakizawa, H. et al. (2007) Neuroprotective effect of nipradilol, an NO donor, on hypoxic-ischemic brain injury of neonatal rats.
    Early Hum Dev, 83: 535-540.

  3. Sato, Y. et al. (2008) Reduction of brain injury in neonatal hypoxic-ischemic rats by intracerebroventricular injection of neural stem/progenitor cells together with chondroitinase ABC.
    Reproductive Science, 15; 813-820